鬱証について

ストレス過多の現代社会において一番深刻な問題と言えるのが鬱証です。
鬱証は精神的なトラブルのみならず生活リズムを悪化させる、仕事効率を悪化させる、対人関係を悪化させるなど、その悪影響は多岐にわたります。
今回は中医学的な鬱証の原因と対処方法についてのご紹介です。

原因1 肝気鬱結(かんきうっけつ)

現代社会の鬱証の中でおそらくもっとも多い原因が肝気鬱結です。
肝気鬱結は「肝の気が鬱々となり固く結ばれたような状態」と考えていただければよろしいかと思います。

そもそも肝には疏泄(そせつ)作用という気の流れを滞りなく流れさせる機能があります。肝の疏泄作用が正常であれば、精神的にもノビノビとしていてストレスにも強く、明るい性格になります。しかし、肝の疏泄作用が乱れると気の流れが停滞し、鬱々として、イライラして、怒りの感情などが出やすくなります

  • 気の鬱証になるとそれが引き金となり、様々なものの流れが悪くなります。
  • 気の流れが悪くなりイライラ爆発してしまう「熱鬱」
  • 気の流れが悪くなり血行不良を起こす「血鬱」
  • 気の流れが悪くなり体に余分なものが溜まる「痰鬱」
  • 気の流れが悪くなり水の流れが悪くなる「湿鬱」
  • 気の流れが悪くなり食べ物の消化吸収が悪くなる「食鬱」

などがあります。一口に気鬱といっても厳密にはさまざまなタイプの「鬱」が重なり合うため、自分の鬱のタイプを見極めることが重要です。
肝気鬱結タイプは鬱証以外にも、ため息、胸やわき腹の張り、お腹の張り、口の渇き、頭痛(片頭痛)などがみられることがあります。

原因2 心脾両虚

心脾両虚は「心と脾が両方ともに虚している状態」という意味です。脾は現代でいう胃腸などの消化器系と考えていただいてよろしいかと思います。
我々は食べた物からエネルギーや栄養を生成し、そのエネルギーや栄養をもとに臓腑が健全に働きます。
脾が低下し心に十分なエネルギーと栄養がいかないと心の働きが虚弱になります。心の働きが活発化しないと「元気が出ない 人と話したくない 考えることが苦手になる」などの虚弱的な鬱証が表れやすくなります
加齢とともに食が細くなったり、ダイエットで食を制限している、体質的に胃腸が弱い人に多く見られ、圧倒的に女性に多い原因と言えます。
心脾両虚タイプは鬱証以外にも、不安、不眠、物忘れ、めまい、顔色が優れない、倦怠感、食欲不振などの症状がみられることがあります。 それぞれのタイプに応じた漢方薬と食養生

1.肝気鬱結タイプにお勧めの漢方薬と食養生

加味逍遥散(かみしょうようさん)

おそらく鬱証に対する最も基本的な処方の一つです。肝の疏泄作用を改善し、精神的な火(イライラ 興奮)を取り除き、胃腸の働きも整えます。清熱作用が若干強いため、冷え症の人は長期的に服用しない方が良いかもしれません。冷えが気になる場合は逍遥散など清熱作用がないタイプを利用すると良いでしょう。
肝脾鬱結タイプにお勧めの食材の特徴は「香が良い 酸味がある」ものです。
例えば…

  • 香り野菜(セロリ 三つ葉 春菊)
  • 梅干し
  • 菊花
  • 柑橘類
  • あさり
  • しじみ
  • 紫蘇
  • パセリ
  • ミント
  • ジャスミン茶
  • カモミール茶

逆に避けた方が良い食材の特徴は強すぎる甘みと塩分、辛味になります。
お菓子屋、味の濃いラーメンや洋食などには十分に気を付けましょう。

2.心脾両虚タイプにお勧めの漢方薬と食養生

心脾顆粒(しんぴかりゅう)

字のごとく「心と脾」の強化にお勧めの漢方薬です。黄耆、党参、茯苓、白朮、甘草など胃腸の働きを良くする生薬群と、当帰、竜眼肉、酸棗仁、遠志などの良質な血を作る生薬群、ストレスを軽減し胃腸の働きを良くする木香がバランス良く配合されています。
食べた物から気と血を生成する力を高めることで、心身ともに丈夫にしていきます。
また遠志は近年、痴呆や記憶力の低下においても注目されています。心脾顆粒は効能の欄にも「健忘(ものわすれ)」が明記されているので、加齢からくる記憶力の低下予防にも良いでしょう。
心脾両虚タイプにお勧めの食材の特徴は「いも類と動物性食材(肉 魚)」です。
例えば…

  • 鶏肉
  • 豚肉
  • 牛肉
  • 羊肉
  • かき
  • レバー
  • ナツメ
  • 黒きくらげ
  • 黒ゴマ
  • 人参
  • 小松菜
  • ホウレンソウ
  • 山芋
  • サトイモ
  • ジャガイモ
  • かぼちゃ
  • ニラ
  • ねぎ
  • 生姜
  • キノコ
  • ブロッコリー
  • えび
  • ほうじ茶
  • 紅茶
  • 黒茶

逆に避けた方が良い食材は冷たい物、生もの、油っこい物、過度に甘い物になります。
たとえばチョコレートなどは食べ過ぎないように気を付けましょう。

まとめ

精神的なストレスは生きていくうえで避けては通れないものです。ですが、心身の弱りや食生活の乱れからストレスに負けてしまったり、過剰に反応してしまう事もあります。
あなたの人生に替えはありません。適切な漢方薬と食養生でストレスに負けない心と体を作っていきましょう。

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