腰痛と漢方

体調不良などからくる腰痛に対し、漢方や中医学では古来より研究がなされてきました。
漢方や中医学では腰痛のほかに腰痠という概念があります。
腰痛は腰付近の痛みを意味し、腰痠は腰周辺のだるさを意味します。そのため腰のトラブルが腰痛なのか腰痠なのか、それとも同時に起きているかなどを検討して対策を練る必要があります。
自分の腰痛の原因を明確にして対策を練っていきましょう。

腰痛の原因

寒邪と湿邪

腰痛は主に寒邪と湿邪が原因で起こります。
寒邪とはいわゆる「冷え」で、湿邪とはいわゆる「湿気や体内の過剰な水分」といえます。
クーラーの風に当たっていると頭痛や関節痛が起きたり、湿度の高い日や雨季の季節、雨に濡れたりすると腰に鈍い痛みを感じた経験がある人も多いでしょう。これは寒邪にも湿邪にも「気血の流れを悪くする」という特徴があるためです。中医学には「不通即痛」という概念があり、気血の流れが悪くなった場所は痛みを発するという考え方があります。

気滞血瘀

気滞血瘀とは気の巡り悪い『気滞』と血の巡りが悪い『瘀血』が併発している状況です。

運動不足や姿勢の悪さ、ストレスなどは気血の巡りを停滞させ、痛みの原因になります。
気滞血瘀もまた、「不通即痛」を引き起こします。
中医書の『景岳全書』にも「跌撲傷而腰痛者、此傷在筋骨而血脈凝滞也」と記されていて、これは「打撲損傷して腰痛が起きている人は、傷が筋骨にあり血脈の流れが悪くなるからである」という解釈され、血行不良が痛みを起こす原因であることが書かれています。

腎虚

加齢からくる腰痛の原因として最も一般的なのが腎虚です。
腎は五臓の中の一つであり「腎は腰を主る」という言葉もあるように加齢が原因の腰痛改善において腎の強化はとても重要です。腎が衰える原因としては加齢、性生活の過多、骨粗鬆症、慢性疾患などがあります。腎虚からくる腰痛の難しいところは、腎虚になる事で腎精を作る力が衰え、腎精から変化する骨髄も少なくなり、骨が弱くなってさらに腰痛が悪化するところです。そのため、腎のケアをしないと腰痛は悪化の一途をたどることがあります。

以上のように腰痛には様々な原因があります。時と場合によっては原因が1つでなく2つ、3つと重複することもあるため自分の腰痛の原因を正しく判断する必要があります。

漢方薬とお勧めの生活養生

寒邪や湿邪

寒邪による腰痛の特徴は「冷えると痛みが増し、温まると痛みが緩和する」ということです。
湿邪による腰痛の特徴は「雨や曇りの時に表れやすい」ということです。
ともに気血の巡りが悪くなることが痛みの原因となるので、漢方薬も気血の巡りを改善するものが選ばれます。
代表的な漢方薬として独活寄生湯や苓桂朮甘湯があります。
独歩顆粒は寒邪、湿邪、風邪を取り払う生薬を中心に筋骨を丈夫にする生薬を配合した処方になります。腰痛や坐骨神経痛など下半身に効果の高い処方構成で、体も温まり長期服用も可能なため愛用者の多い処方です。腎虚タイプの腰痛にも利用ができます。

苓桂朮甘湯は胃腸を温め寒邪や湿邪による悪影響を取り除く漢方薬です。
日本人はアイスやジュース、ビールなど冷たいものを好む傾向があり、胃腸が弱って体質的に寒邪と湿邪を生みやすいと言われます。これを内生寒邪や内生湿邪と呼びます。
腰痛そのものに対する漢方薬というよりも補助的な処方として考えられます。
胃腸が弱く、眩暈やふらつき、下痢傾向がある人にも使用します。

寒邪や湿邪に侵されないための生活養生

  • 温かい服装、帽子、マフラーなどを巻いて、冷たい風が直接皮膚に当たらないようにする
  • 冷たいものや消化の悪いものは食べない
  • 汗をかくような運動をする
  • 入浴時間を確保する

気滞血瘀

気滞血瘀は気の巡りと血の巡りを改善する漢方薬がお勧めです。
代表的な漢方薬として冠元顆粒、温経湯、桂枝茯苓丸、血府逐瘀丸、加味逍遙散などが挙げられます。
冠元顆粒は瘀血改善の代表的な処方で、気の巡りを改善する生薬も配合されています。そのため、腰痛以外にも血行不良が原因となるあらゆる症状に応用が可能で、運動不足やストレス不足が多い現代人には特におすすめの処方と言えます。
温経湯や桂枝茯苓丸も瘀血改善の処方として有名です。
加味逍遙散は気の巡りを改善する処方で、血の巡りを良くする効果はあまりないので、補助的に使用するのが良いでしょう。

気滞血瘀にお勧めの生活養生

  • デスクワークなど煮詰まる仕事をしている人は適度に散歩などを挟む
  • ストレスを感じるものからは積極的に距離を置く
  • 就寝時間を確保する
  • 運動や入浴など血流が良くなる時間を持つ
  • アルコールは控える
  • 冷たいものは口にしない
  • 喫煙しない

腎虚

腎虚は腎の衰えを補う補腎薬と呼ばれる漢方薬がお勧めです。
補腎薬は六味地黄丸を基本構成に様々な処方が考案されているため、服用の際は必ず相談の上で自分の体質に合った処方を選ばなくてはなりません。
個人の判断での服用は控えましょう。

腎虚にお勧めの生活養生

  • 過度な性生活を控える
  • 腎に良い食材をたべる
    (牡蠣 シジミ アサリ 海藻 のり キウイフルーツ アワビ クラゲ イカ 貝柱 ゴマ 黒豆 キャベツ ブロッコリー ゴボウ サツマイモ ブドウ 栗 エビ ひじき トウモロコシ ゴーヤー キュウリ 大根 トマト 羊肉 エビ 鰻 ナマコ クルミ ニラ アワビ クラゲ イカ 貝柱 豆 ゴマ 小麦 山芋 クルミ クコの実)
まとめ

腰痛は『冷え』、『水分代謝の低下』、『血行不良やストレス』、『老化』など原因は多岐にわたり、また多くの腰痛が重複して発症していることが多いです。
腰痛の原因を正しく判断し、適切な漢方薬を服用する事が、改善するうえでとても重要です。
また腰には多くの筋肉があるので、腰の筋肉のトレーニングやストレッチも重要です。
腰は体の要、長く楽しく人生を過ごすためにも大切にしてくださいね。

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