秋の登校拒否と漢方

はじめに

登校拒否とは厚生労働省によると『何らかの心理的、情緒的、身体的若しくは社会的要因又は背景によって、児童生徒が出席しない又はすることができない状況』を指します。
文部科学省が公表した「問題行動・不登校調査」では、全国の小中学校で2021年度に学校を30日以上欠席した不登校の児童生徒は前年度から4万8813人(24.9%)増の24万4940人となり、過去最多を記録したということです。不登校も年々増加し、10年前と比較すると小学生は3.6倍、中学生は1.7倍も増えています。

原因としては様々考えられていますが、一説にはコロナ禍による通学の制限や生活リズムの変化、休む事への抵抗感の低下、希薄な交友関係などが挙げられています。

当店でも不登校・登校拒否の相談はコロナ禍と同時に増加傾向にあります。

漢方的原因

登校拒否のお客様をカウンセリングしていると大まかに3つのタイプの不調が考えられます。

1.気血不足

体のエネルギーとなる「気」や心身に栄養を与える「血(けつ)」が不足している状態です。
エネルギーも栄養も不足しているこのタイプはとにかく『元気がない・倦怠感が強い』のが特徴で女性に多いです。
女性は生理が始まると定期的に出血してしまい「血」が不足します。また、ダイエットなどを意識して食事量を減らしたり偏った食事をすると、血を作ることもできないためさらに悪化します。
気と血は「気血同源」と考えられ、気血は主に食事という共通の源から作られます。
気血不足が起きている場合、ダイエットを停止することも大切です。

気血不足にみられる症状

  • 疲労感
  • 不眠
  • 不安
  • 食欲不振
  • 物忘れ
  • 眩暈
  • 立ち眩み

気血不足がみられる場合は気血を補うような漢方薬を服用します。十全大補湯や婦宝当帰膠、帰脾湯など様々な漢方薬があるので体質に応じて処方を選ぶ必要があります。
また、五臓の中の一つである『脾』は食べ物から気血を生成する大切な臓です。
脾は現代医学でいう胃腸に近い存在です。お腹が弱い体質の人は脾の働きを良くする漢方薬や消化を助ける漢方薬を併用するのも良いでしょう。
食事はバランスの良い十分な量を食べる事が大切です。
パンだけ、おにぎりだけ、など糖質のみの食事にならないように気をつけましょう。
肉や魚、卵など動物性たんぱく質もしっかりとりましょう。
また、気血不足は心身が疲労状態でもあるため、無理な運動も厳禁です。
運動は散歩やジョギング程度にしておきましょう。

2.肝気鬱結

五臓の一つ肝は精神や感情をコントロールする役割があります。
しかし、精神的なストレスを強く受けると、肝の働きが低下し、精神や感情のコントロールがうまくできなくなります。
思春期は特に肝の不調が起こりやすいのが特徴で、五行学説において肝に該当する五色は『青』、五季は『春』になり、まさに『青春』は肝の不調がつきものです。
特に肝の働きが乱れると感情が不安定になり入眠が困難になる事があります。
登校拒否のお客様のカウンセリングをしていると多くの方が登校拒否のきっかけとして「なかなか寝つけず、翌朝、起きられなかった」と言います。
そこで、学校を休み、昼過ぎまで寝てしまう事で1日のリズムが崩れてしまい、夜眠れない→朝起きられない→学校に行けない→リズムを崩す→夜眠れない…、という負のループに陥りがちです。
肝の乱れがきっかけで1日のリズムが崩れてしまい登校できない、という状況になってしまうこともあるのです。
肝の働きを良くすることはメンタルコントロールに非常に重要であり、生活のリズムを安定させるためにも整えておく必要があります。

肝気鬱結にみられる症状

  • 情緒不安定(怒りっぽくなる)
  • 憂鬱
  • お腹の張り
  • 眼精疲労
  • 目の奥の痛み
  • 頭痛

肝気鬱結が起きている場合は肝の働きを良くしつつメンタルを安定させる漢方薬を服用します。逍遥顆粒や加味逍遙散、四逆散などを状況に応じて服用します。
また適度に運動をする、歌を歌う、会話をするなど気を発散することも大切です。
部屋でじっとしていると気の巡りは悪化する一方です。
午前中を中心に公園などに出かけて散歩やジョギングをして気を発散しつつ、1日の生活リズムを整えていけるようにしましょう。

3.痰湿停滞

冷たいジュースやお菓子、揚げ物にこってり料理…。。
そんな料理が登校拒否の原因になるかも…、なんて聞くと少し意外かもしれません。
痰湿とは体にとって余分な水分や脂肪がたまっている状態です。
漢方や中医学には『脾は生痰の源、肺は貯痰の器』という考えがあり、脾に負担をかけると痰が生まれやすくなる、と考えます。これは現代医学でいうところの冷たい飲食や不摂生により胃腸機能が低下して、浮腫みや体重増加を起こしている状態に近いかもしれません。
痰湿は気の巡りを停滞させてしまうため、疲労感とは違う鬱々とした感覚が出てきます。

痰湿停滞にみられる症状

  • 体が重く怠い
  • 浮腫み
  • 太りやすい
  • 軟便
  • 口内が粘る
  • めまい
  • 吐き気
  • ニキビが目立つ

痰湿停滞が起きている場合は痰湿を改善しつつメンタルを安定させる漢方薬を服用します。
温胆湯や二陳湯などを中心に状況に応じて使い分けます。
何よりジュースやお菓子、揚げ物や油っこいものを食べるのは絶対にNGです。
そして体の中に溜まってしまった余分なものを排出するために運動をしましょう。

まとめ

登校拒否と聞くと『何か学校で嫌なことがあったのかな?』と思いがちですし、実際にそのようなケースもあると思います。しかし、中には特に嫌なことがあるわけでもなく、体調が悪くて学校に行けないケースもあります。
気血不足タイプはゆっくりと休む事・食べる事が大切である一方、肝気鬱結や痰湿停滞は積極的に動くなど対策は全く変わってきます。
漢方相談では漢方薬や食事、生活リズムを一緒に見直すことを大切にしています。
上記の原因も単独ではなく複数が原因となっている場合もありますので、お困りの際はぜひご相談ください。

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