ストレス過多による不眠と漢方
『会社で嫌なことがあって眠れない』
『夫婦喧嘩をしたら眠れなくなった』
そのような『怒りの感情』が不眠の原因になる事はよくあります。
漢方では不眠の原因になる感情として【憂い・怒り・思い・悲しみ】を挙げています。
特に怒りはストレス社会と言われる現代日本において多くの人が抱えている感情と言えるでしょう。
怒りの感情はなぜ不眠の原因になるのか?
怒りの感情からくる不眠にはどのような漢方薬を使用するのか?
今回はそんな【ストレス過多と不眠と漢方】についてご紹介します。
怒りは肝を傷つける
漢方における肝には疏泄機能と呼ばれる働きがあります。
疏泄機能とは気血水の巡りを滞ることなく循環させる働きと言えます。
血流の安定や精神情緒の安定は肝の疏泄機能が大きな役割を果たしていると言えます。
肝の状態が良い人は血流も良く、精神的にものびやかな状態となります。
しかし、肝の疏泄機能はストレスなど【怒り】の感情で機能が低下します。
肝の疏泄機能が低下すると、抑うつ感、怒りっぽい、ため息、胸が張る、などの症状が出てきます。この状態を肝気鬱結と言います。
日常的にストレスにさらされる機会が多く、肝気鬱結の状態が長く続くと気は鬱々とし火に化けます。これを肝火上炎といいます。
肝火上炎になると、煩躁、怒りっぽい、頭痛、めまい、顔面紅潮などの特徴も見られるようになります。
アニメや漫画で怒り狂っているキャラクターはまさに肝火上炎の状態と言えるでしょう。
さて、漢方において肝と心は母子の関係にあると考えられています。
肝は親であり、心は子の関係です。
親の熱病(火)は子である心に伝わると、心の働きの一つである【心蔵神】が乱れてしまい不眠を引き起こします。
このように瞬発的にも長期的にもストレスは不眠の原因になります。
そのため、ストレスなど怒りの感情により不眠が起きている場合は、肝の働きを改善しメンタル的な火を消す処方を中心に考えます。
お勧めの漢方薬
加味逍遙散
逍遥散に牡丹皮と山梔子を加えた処方です。
肝の疏泄機能を回復させる逍遥散に牡丹皮と山梔子が加わったことで肝気が鬱して生じた火を冷ます働きがあります。
慢性的にストレスにさらされて、イライラや怒りっぽさが目立つ人には良いでしょう。
頭痛やめまい、動悸など様々なトラブルに応用が可能なので試しやすい処方です。
精神的なストレスに加えて、慢性疲労が強く、のぼせや顔面紅潮、心煩が目立つ場合は酸棗仁湯を併用する事もお勧めです。
抑肝散
肝陽を平定する平肝熄風薬である釣藤鈎と肝の疏泄を促し鬱を解く柴胡・川芎を中心に健脾作用のある白朮・茯苓・甘草からなる処方です。
抑肝散といえば幼児の夜泣きや歯ぎしりに対して使用されるイメージが強いですが、ストレスからくる不眠にも使用できます。
似た処方に抑肝散加陳皮半夏がありますが、悪心・嘔吐などが併発している場合には良いでしょう。
柴胡加竜骨牡蠣湯
肝の疏泄機能を回復しつつ肝火を清し、精神を安定させる働きがある処方です。
柴胡加竜骨牡蠣湯の骨格となる小柴胡湯は肝経に停滞している邪気を払います。
そこに茯苓・竜骨・牡蛎といった安神作用のある生薬が入ることで、イライラや頭痛、のぼせ、口渇、情緒不安定などの症状が目立つ不眠に用いると良いでしょう。
竜胆瀉肝湯
竜胆瀉肝湯は温清飲をベースに作られた処方で、本来は肝胆の湿熱が原因による慢性の膀胱炎に使用される処方です。しかし、日頃からアルコールや揚げ物、高カロリーを好む人が突発的な出来事でイライラしてしまい、不眠になる場合にもお勧めです。
肝火がとても強く頭痛やめまい、目の充血が起きている場合に良いでしょう。
しかし、この処方は胃の働きを悪くする可能性があるため、長期的な服用はあまりお勧めできません。
症状が改善したら服用を止めるようにしましょう。
現代社会においてストレスを避ける事は難しいです。
さらに真面目な人や我慢しがちな人ほど、知らず知らずのうちに肝の働きが悪くなり、不眠になってしまう事があります。
日頃からストレスを溜めないことを意識しつつも、ストレスを緩和する漢方薬を服用して少しでも睡眠の質を良くしていきましょう。