慢性疲労と漢方
『疲れは病気』というと、ピンとこない人も多いと思います。
漢方や中医学では疲労を虚労と呼び、一つの病症とされています。
疲れやすいという人は多くいます。ですが現代医学ではこうした状態を治療対象としない傾向があります。疲労は万病の元であり、なにより日常生活が楽しくないのはとても残念なことです。漢方と中医学の知恵で疲労を改善し、元気な毎日を送りましょう。
漢方における疲労の原因
虚弱体質
漢方や中医学では、先天の精(父母から受け継いだ生まれ持った生命力)が弱い人は虚弱体質になりやすいと考えます。つまり、父母から受け継いだ生命力が弱ければ子供も虚弱になりやすいということです。先天の精の不足は腎の弱さと関連しているため、骨格が細かったり、背が伸びにくい場合があります。
過度の性生活
精は体や内臓の働きを充実させる大切な物質と考えられ、過度に消耗することは疲労感につながります。
漢方の世界では女性は49歳、男性は56歳で精が枯渇していくと考えるため、やみくもな性の消耗は控える必要があります。
飲食の不節制
心身のエネルギーである気は日頃の食事から主に生成されています。
偏った食事や、過度なダイエットをすると気が足りなくなるばかりか胃腸の働きが低下し、エネルギーを生みにくい体になり疲労感が加速的に進みます。ダイエット中も単一食品ばかりとるのは避けるべきです。疲労を感じた場合は食事内容を見直し、ダイエットは控える必要があります。
過度の疲労
過度な疲労は当然、体のエネルギーを消耗するため、肉体を養うことができず疲労感や体調不良の原因になります。
生活リズムの安定しない仕事や、過度な肉体労働・精神疲労をもたらす仕事などは注意が必要です。
漢方における疲労の原因
心虚労
五臓の中の心が疲労している状態です。
心は『血脈を主る』『蔵神を主る』などの機能があり、いわゆる全身の血流や脳の働きに関わってきます。
心は高次神経系に関わるため、脳の疲労を感じやすく、肉体疲労よりも精神疲労を感じやすくなります。
心虚労の特徴
- 動悸
- 不安感
- 胸が痛む
- 顔色が白い
- 表情が乏しい
- 不眠
肺虚労
五臓の中の肺が疲労している状態です。
肺には『気を主る』『呼吸を主る』『宣発粛降を主る』という機能があり、呼吸による気の生成や水分代謝などに関わってきます。
肺は気を生成するため、肺が弱ると気を作る力が低下するので、精神的にも肉体的にも疲労を感じやすくなります。
肺虚労の特徴
- 息切れ
- 風邪をひきやすい
- 汗が出やすい
- 咳
- 痰
- 喉のいがらっぽさ
- 顔色が白い
- 声が小さい、弱い
- 便秘
- 皮膚の乾燥
脾虚労
五臓の中の脾が疲労している状態です。
脾には『運化を主る』『肌肉、四肢を主る』という機能があり、食事から気血を生成したり、筋肉や肌への気血の運搬に関わってきます。
肺と同様に脾は気血を生成する根源であるため、脾が弱ると気血を作ることが出来ません。
精神的にも肉体的にも疲労感を感じます。
脾虚労の特徴
- 疲労感
- 手足の倦怠感
- 食欲不振
- お腹が張る
- 食後のもたれ
- 倦怠感
- 下痢か軟便
- 四肢に力が入らない
肝虚労
五臓の中の肝が疲労した状態です。
肝は気が不足することは珍しく、主に肝の疲労は肝血不足から来ます。
肝には『疏泄を主る』という機能があり、自律神経の調節や血流の調節に関わってきます。
イライラや鬱など精神的な乱れを起こしやすくなります。
肝虚労の特徴
- 眩暈
- 立ち眩み
- 目の疲れ
- ドライアイ
- イライラ
- 憂鬱
- 不眠
- 月経不順
腎虚労
五臓の中の腎が疲労した状態です。
腎は『精を蔵し、生殖を主る』『納気を主る』『髄を生じ、脳に通じる』『水液を主る』などの機能があり、ホルモン系や老化、水分代謝に関わってきます。
腎はホルモン系に関わるため、精力の低下、意欲の低下、午後からの疲労感などが顕著になります。
腎虚労の特徴として
- 腰痛
- 腰の重い怠さ
- 眩暈
- 立ち眩み
- 耳鳴り
- 聴力低下
- 浮腫み
- 尿が出にくい
- 頻尿
- 性欲の低下
これら5つの虚労は単体で表れることは珍しく、組み合わさって【虚労】となります。
そのため、自分の虚労のバランスを見極めることが適切な漢方薬の選定につながります。
それぞれの虚労に応じた漢方薬
心虚労
心虚労は気を補うだけでなく、血流やメンタルを安定させる漢方薬をお勧めします。
炙甘草湯が有名ですが、脾の弱りがあれば帰脾湯、冷えなどが強ければ十全大補湯なども良いでしょう。ほかにも心の弱りから睡眠障害などがあれば酸棗仁湯などを併せるのも有効です。
肺虚労
肺虚労は肺の働きを良くし、肺気を高める漢方薬がお勧めです。
代表的なものに玉屏風散があります。玉屏風散は脾と肺の働きを良くするため、食べ物から得る気(穀気)と呼吸から得る気(宗気)を同時に補えます。
加齢などにより腎虚労も重なるようであれば、八仙丸を併せるのも良いでしょう。
脾虚労
脾虚労は脾の働きを良くし、気を生成する力を挙げる漢方薬がお勧めです。
代表的なものに補中益気湯や香砂六君子湯、参苓白朮散などがあります。
疲労から頭がボーとする、めまいなどが酷いようであれば昇気作用のある升麻が入った補中益気湯が良いですし、ストレスなどで脾の働きに難がある場合は香砂六君子湯が良いです。
肝虚労
肝虚労は肝血と呼ばれる血を増やし、肝の緊張をほぐして働きを良くする漢方薬がお勧めです。
代表的なものに逍遥顆粒があります。補血作用がありつつも疏肝作用もあり、肝の働きを良くします。生理がある女性は血虚が目立つ場合もあるので、その場合は四物湯や婦宝当帰膠など補血作用に特化した処方を併せるのも良いでしょう。
腎虚労
腎虚労は腎の気や精を高める漢方薬がお勧めです。
代表的なものに八味地黄丸や杞菊地黄丸、瀉火補腎丸、参馬補腎丸、参茸補血丸、至宝三鞭丸などがあります。
補腎薬は様々な種類があるため、選定を間違うと体調を崩す場合もあります。
服用の際は必ずご相談ください。
疲労は体からのSOSであり、決して見逃してはいけないものです。
特に心と体は表裏一体の関係にあり、肉体の疲れは心の疲れを引き起こし、鬱などになるケースもあります。
たった一度の唯一無二の自分の人生を謳歌するためにも、『疲労した心と体』を改善し、『血気盛ん』な人生を歩みましょう。