ダイエットと漢方
『美味しいものは脂肪と糖でできている』とCMのキャッチフレーズにもあるように、現代社会は太りやすい食事をとることが多くなっています。
そのため、ダイエットが必要になる人も増えてきています。残念ながら『服用すればみるみる痩せていく』という魔法のような漢方薬は存在しません。
しかし、ダイエットを補助することは漢方薬の得意分野です。それは漢方が体質改善を得意としているからです。
自分の体質を理解することも、ダイエットにおいてとても重要な事です。
自分の体質を判断して失敗のないダイエットをしましょう。
肥満の原因
肥満症の原因は大きく以下の6つに分けられます。
痰湿内蘊
痰湿内蘊とは、体の中に余分なものが溜まっている状態を指します。
脂っこいもの、甘いもの、お酒の取りすぎにより生じるタイプです。
現代の過食からくる肥満の典型です。
古文の中にも『肥貴なる人』について『高梁(食物)の疾なり。』と書かれており、古来より肥満の多くが食べすぎによるものと指摘されています。
痰湿内蘊に特徴的な症状
- お腹が張る
- 胃部不快感
- 痰が出る
- 食欲がある
- 倦怠感(特に雨の日や梅雨の時期)
- 舌の苔が厚い
脾気虚弱
脾気虚弱とは脾の働きが低下している状態です。
脾とは現代でいう、胃腸の働きに近いものです。脾は食べたものを栄養にして全身に運ぶ役割があるため、脾が弱ると食べたものをエネルギーや各組織の栄養へと代謝する力が低下して太りやすくなります。
また脾気は水分代謝にも大きく関与しているため、脾が弱ると浮腫みやすい体質になります。
脾気虚弱の特徴的な症状
- 疲れやすい
- 食欲不振
- 風邪をひきやすい
- 眠くなりやすい
- 倦怠感
- 浮腫んでいる
血瘀
血瘀は血行不良や血液ドロドロに近い考えです。
瘀血の中には脂肪が含まれているため、瘀血の進行=脂肪太りを促進すると考えられます。血行不良は酸素や栄養の運搬機能が低下するため代謝の低下を招きます。食事も制限して、運動も頑張っているのに、なかなか体重が減らない人に多く見られます。
血瘀の特徴的な症状
- 顔色が暗い
- 顔色や唇の色が暗い
- 生理痛が強い
- 肩こり、頭痛が強い
- 四肢が冷えやすい
- 目の下にクマができやすい
肝気欝結
肝気鬱結とは肝の働きが乱れ、気の巡りが悪くなることでストレスやイライラ、鬱を感じやすくなる状態です。
肝気鬱結になるとその精神的なストレスを発散させるために、食欲が増幅される傾向があります。
仕事や勉強に疲れると食べ過ぎてしまう人がこれに当たります。
肝気鬱結の特徴的な症状
- イライラしやすい
- 鬱々としやすい
- 胸やお腹が張ることがある
- 入眠困難
- 暴飲暴食してしまう事がある
- こめかみの頭痛がある
- 目の疲れを感じやすい
肝胆湿熱
肝胆湿熱とは体に過剰な湿と熱がこもることで、肝の働きが異常亢進することです。
肝胆湿熱は現代医学の脂肪肝を伴うような肥満になる事が多いです。
特に強い酒(日本酒、焼酎、ワインなど)を毎日飲む人に多く、元気で豪快な性格の印象を持たれやすいです。しかし肝胆の熱は興奮状態を生みやすく短気で怒りっぽいこともあります。
肝胆湿熱の特徴的な症状
- 口臭が気になる
- 顔色が赤くなりやすい
- 目が充血しやすい
- 軟便気味
- 舌に黄色い苔がある
- 入眠困難や途中覚醒をしやすい
- イライラしやすい
- 短気
- 声が大きくなりがち
腎虚
腎虚とは腎の働きが低下した状態です。
漢方や中医学において、腎は体の水分代謝をコントロールする大切な臓です。
腎の気が不足すると、全身の水が滞り浮腫んだような肥満になります。
また腎陽が低下すると全身の代謝が低下し、痩せにくくもなります。
腎は『人の老化は腎の老化』という言葉からも、加齢と共に衰えていく臓であるため、加齢と共に痩せにくくなるのは腎の衰えも考える必要があります。
腎虚の特徴的な症状
- 腰痛がある
- 手足が冷える
- 夜間にトイレに行きたくなる
- 浮腫む
- 性欲や精力の低下
- 下半身が太りやすい
- 元気がない
漢方薬とお勧めの生活養生
痰湿内蘊
痰湿内蘊には化痰利湿薬がお勧めです。
代表的なものには二陳湯,平胃散、胃苓湯などがあります。
痰が絡みやすい人は二陳湯、お腹周りの水太りのようなものが目立つなら平胃散、下痢傾向が強いなら胃苓湯と大雑把に考えても良いでしょう。
しかし、痰湿内蘊は何より食べ過ぎ飲みすぎが原因です。
必ず食事の節制を守ってください。
痰湿内蘊による肥満にお勧めの生活養生
- 暴飲暴食をしない
- 豆類、キュウリ、トマトなど清熱しつつ利尿する食べ物を食べる
- 香辛料のかけすぎをしない
脾気虚弱
脾気虚弱には健脾益気薬がお勧めです。
代表的なものに六君子湯、防己黄耆湯などが挙げられます。
六君子湯は益気健脾の基本方剤である四物湯に二陳湯を混ぜた処方です。
長期服用も問題ないので、日頃から胃腸の弱りが気になる場合は良いでしょう。
ストレスから胃の具合が悪くなる場合は香砂六君子湯などがお勧めで、実際にはこちらの処方を好まれる人が多いです。
防己黄耆湯は上半身の水太り傾向にお勧めです。呼吸器系が弱い人や風邪をひきやすい人にもお勧めできます。
脾気虚弱による肥満にお勧めの食材
- キャベツ
- ネギ
- 玉葱
- 枝豆
- 大豆
- 小豆
- ナス
- ニンジン
- タケノコ
- 舞茸
- リンゴ
- サクランボ
- レモン
- ハトムギ
血瘀
血瘀には活血化瘀薬がお勧めです。
代表的なものに冠元顆粒や桃核承気湯があります。
桃核承気湯は主に下半身に血瘀がみられる場合に使います。ただ、疲労感が強い時などには服用は避けたほうが良いでしょう。
冠元顆粒は血瘀を改善しつつ、気の巡りも良くするため、全身の血瘀改善にお勧めです。
血瘀による肥満にお勧めの食材
- ニラ
- ネギ
- 玉葱
- ナス
- 鯵
- 鰯
- 秋刀魚
- ひじき
- サクランボ
- 桃
- 紅花
肝気鬱結
肝気鬱結には疏肝理気薬がお勧めです。
代表的なものに加味逍遙散、開気丸、防風通聖散などが挙げられます。
イライラが特に強く、ストレスから過食に走ってしまう場合は加味逍遙散で気の巡りを良くし防ぐと良いでしょう。開気丸も加味逍遙散と同様の使い方で問題ありません。
防風通聖散は大黄と呼ばれる強烈な便通促進薬が入っているため、軟便や下痢傾向の人には使いません。気血を補う生薬は入っていないので、疲労感がある人も避けたほうが良いでしょう。
肝気鬱結びによる肥満にお勧めの食材
- キャベツ
- ニラ
- ネギ
- レモン
- ミカン
- 梅
- 酢
- 玉葱
- ナス
- 鯵
- 鰯
- 秋刀魚
- ひじき
- サクランボ
- 桃
- 紅花
- 陳皮
- 菊花
肝胆湿熱
肝胆湿熱には清熱利湿薬がお勧めです。
代表的なものに茵陳蒿湯があります。
大黄と呼ばれる強い便通改善の生薬が入っているので、軟便や下痢傾向の人は服用しません。
肝胆湿熱は何より、食事内容を見直すことが重要です。
揚げ物や辛いもの、アルコールは必ず控えるようにしましょう。
肝胆湿熱による肥満にお勧めの食養生
- 断酒をする
- 揚げ物を食べない
- ジュースを飲まない
- 豆類やキュウリ、ハトムギ、トマトなど清熱しつつ利尿するものを意識的に食べて、水分もこまめに飲む
腎虚
腎虚には補腎薬がお勧めです。
補腎薬は多種多様にあります。特に参馬補腎丸は日本人の体質に合わせた漢方薬と言われ、胃腸が弱い人にお勧めです。
腎虚による肥満はあまり多くはないため、実際にはダイエットを目的に補腎薬を服用することはあまりないでしょう。
しかし、腎を高めることは活力や生命力の向上につながるので、ダイエットに前向きな気力をつける目的もあるかもしれません。
ダイエットは食事、睡眠、運動の3本柱が基本になりますが、漢方薬で体質を改善することでダイエット効果を高めることは可能です。
そのためにも、自分の体質を適切に判断することが重要です。
体質を改善して健康的なダイエットを成功させましょう。