動悸
動悸は中医学では心悸といい心臓が拍動し不安になる症状全般をさします。ささいな出来事にも驚いて胸がドキドキし不安になることもあれば、激しく動悸する方もいるでしょう。中医学では動悸は頻脈、徐脈、不整脈、心筋炎、心不全以外にも自律神経失調症や心臓神経不安症、鬱症などにも現れると考えます。動悸となる原因は大きく5つに分けられると考えられており、それぞれのタイプに応じた処方を服用することが大切です。
①心気血不足
心は西洋医学の心臓と同様に全身の血を統括すると考えられ血液の運行を担っています。この心を動かすエネルギーが心気であり、心気が低下すると血液の運行が低下します。血液の運行が低下すると水液と血の流れは悪化し、それぞれ痰飲や瘀血となり、さらに動悸を悪化させます。また、中医学では血は精神を安定させるもの、とされています。精神疲労や気血の不足、出血疾患により血が消耗されると、不安感をともなう動悸が発生するのです。
元代の名医である朱丹渓の著書には「心血虚すれば、神気守らず、これ驚悸のはじめなり」と記載されています。お年寄りの方に多くみられ、いつも何かの心配をする、不安がるなどの特徴があります。他にも不眠や顔色が優れない、運動能力の低下などが特徴として挙げられます。この場合は、心の気と血を同時に補い心を安心させる処方を服用することが大切です。
代表方剤は炙甘草湯で別名「復脈湯」と呼ばれています。気血の不足を補い動悸を主症状とする不整脈に用いられる事が多いです。もしも、夏場など汗をかく季節であれば潤いを補う麦味参顆粒と併用するのも良いでしょう。さほど動悸症状が強くなく、むしろ不安感や不眠が強ければ帰脾湯もおすすめです。
②肝腎陰虚
肝には「血を蔵す」働きがあり、肝の血が不足するとその影響が心血の不足をまねき、動悸が現れます。また陰(体の潤いのようなもの)が虚(不足)することにより、体の陰陽のバランスが乱れ、体の中で火が発生し精神を乱すため、気持ちのそわそわ・イライラを伴う動悸が生じます。
一般的に陰虚体質の人、陰血を消耗する疾患、更年期自律神経失調症の方に多くみられます。 虚火があるため、火照りや五心煩熱があり舌の色が赤みが強いなどの特徴がみられます。この場合は体に潤いと血を補い、精神を安定させ動悸を改善する方法をとります。
代表的な方剤に天王補心丹があります。おもに不眠に使われますが陰虚による火を改善するため不安、動悸にも使用されます。薬局では更年期症状の動悸・のぼせによく使われるため馴染みのある方も多いかと思います。他にものぼせがさらに強いようであれば瀉火補腎丸などが使用されます。
③心腎陽虚
心気虚がさらに悪化すると心陽虚になり、その影響で腎の陽も虚することがあります。①の心気虚よりも症状が重く、体の水分代謝が低下しむくみをともなう動悸を起こします。腎機能の低下がみられる方に多いです。
水の停滞があるため、胸が悶々とし、呼吸が正常にできず浅くなりやすくなります。手足の冷えやむくみがあり、時にめまいを伴います。 この場合は心と腎の陽を補いむくみがあれば利水法と胃腸の働きの改善を行います。
代表的な方剤には苓桂朮甘湯があります。茯苓・桂枝・白朮・甘草の4種類から成るシンプルな方剤ながらめまい、むくみ、動悸の治療に良く使われる方剤です。陽気の不足が重大であれば真武湯と合わせるのが良いでしょう。真武湯は温陽利水の代表方剤で主薬のブシは腎の陽気を温補して水分代謝機能を回復させます。
④血脈瘀阻
脈中に瘀血が存在することで血の流れが妨げられ、気血の運行が障害され動悸が発生します。全体的に血行不良症状がみられ、時に胸がチクチクと痛み、顔色が暗く感じられます。この場合は瘀血を改善し血液の巡りを良くする活血化瘀法をとります。
代表的な方剤に冠元顆粒があります。中国の狭心症治療薬「冠心Ⅱ号方」をもとに日本で発売されている処方で、全身の血行を改善する作用があります。狭心症以外にも肩こり、冷え症、生理痛、関節痛、不眠など血行障害全般に広く使われます。
⑤肝鬱気滞
ストレスや感情の変動により気血の運行が阻害されると気滞血?の状態が生じ動悸が現れます。肝鬱気滞が長引くと熱に変化し精神を乱す症状が出てきます。この場合はストレスを解消させ気の巡りを良くする処方が大切になってきます。
代表的な方剤には加味逍遥散があります。逍遥散はストレスによる体調不良の基本処方です。ここに牡丹皮、山梔子の2種を加えたものが加味逍遥散です。熱を取る働きが追加されているため、イライラしてカッカしている人に使われます。動悸が強い場合は酸棗仁湯を併用するのが良いでしょう。他にも熱症状が出ている場合で口臭や気持のそわそわ、不眠などがあれば竹茹温胆湯もいいかと思います。
以上の5つが動悸の主な原因と考えられます。自分の症状に合ったものを選んで楽しいく安全な生活をおくりたいですね!





